エリート専務の献身愛
 そういえば、こんなふうに見上げる男の人って、身近にはいなかったかもしれない。

 高身長もいくつかあるコンプレックスの内のひとつ。
それでも、ヒールを履く時間だけは、背筋を伸ばす努力をしている。

 今の私は、きっと百七十七センチになっているはず。
彼が至近距離にいるからというのもあるかもしれないけれど、それにしたって背が高いっていうことだ。
たぶん、百八十五センチはありそう。

 驚かされてばかりで、気持ちが追い付かない。

 呆然としていた私に、彼は終始余裕のある振る舞いで私の手にある搭乗券に小箱を重ねるように差し出す。

「それと、これも」

 見るとそれは、なんのことはないただの絆創膏。
 だけど、少量パックとはいえ、絆創膏を男の人が持ち歩いていたことにびっくりだ。

 もしかして、彼もどこかしら怪我をしていてたまたま……?

 未開封の箱に目を落とし、戸惑っていると彼が言う。

「頑張り屋みたいだから、たくさん持っていても困らないかと思って」

 ……え? それじゃ、まるで――。

「じゃあ、また」

 都合のいい期待を膨らませてしまいそうになって、心を落ち着けようとしている間に、彼はあっさり去って行く。
 ぽかんと立ち尽くし、背中を見送っていると、不意に彼が顔だけ振り向かせて柔らかく微笑んだ。

 不意打ちの優しさと笑顔に動揺して、顔が赤くなってしまいそうだったのをごまかすように頭を下げた。
 長めに下を向き、勇気を出して起き上がった時には彼の姿はなかった。

 手元に焦点を合わせ、搭乗券を見る。

 【SO ASAMI】――あさみ、そう? あさみさん、か。

 彼の素性に触れることができて、少し安堵した。
同時に、あさみさんの笑顔を思い出し、不覚にも胸を高鳴らせていた。


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