エリート専務の献身愛
「気づけば、依存しているなと思ったんです」
「好きな子に頼られて嫌な思いをする男はいない。気にしなくてもいい。それに、オレだって必要としているわけだから、相互依存になると思うよ」

 浅見さんは優しいからそう言ってくれるけれど、この短期間でここまで心を占めるってきっと異常だ。

「仮に今、そうだったとしても、きっとこのまま着いていったらその関係は崩れるような気がします」

 今の自分は仕事も、人間的にもまだまだ半端。
 この状態でついていっても、目標もなく、ガラッと変わった環境に焦る一方だ。そうなると、絶対に浅見さんに頼って、彼しか私の世界に存在しなくなって、息苦しい思いをするだけ。

 そんな未来が見えるから。

「……だから、このタイミングでは、私は浅見さんと一緒には行けません」

 精一杯の強がり。
 だけど、ここで流されたらきっとダメになる。

 今は一緒に行けない。……今は。

「そうか。……わかった」

 俯く私の横で、ひとこと返された。そして、トン、とグラスを置く音に目を向ける。
 さっきまでグラスに半分以上は入っていたはずのカクテルを、浅見さんは一気に喉に流し込んだのがわかった。

 ふたりの間に沈黙が流れる。

 少しして、浅見さんはバーテンダーに「ジプシーを」と言った。
 目の前でシェイカーを振り、逆三角形のカクテルグラスに注がれた黄色い液体を眺める。

「これを飲み終えるまでは付き合ってくれる?」

 浅見さんに言われ、私は涙目をごまかすように頷いた。
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