エリート専務の献身愛
 私は『今はついていけない』と考えて伝えた。それは、裏を返せば『もう少し時間をもらえたら状況は変わる』と思っていたわけだけど、どうやら向こうはその選択肢は存在しなかったらしい。

 遠距離恋愛を覚悟していた。簡単に『大丈夫』と言えるような距離ではないことはわかっていた。それでもいいって思うくらい、彼が好きで。

 だけどそれは私の思い上がりで、浅見さんの中には〝ついていく〟か〝離れる〟かのどちらかしかなかったみたい。
 きっと、彼は大人だから、距離がどれだけの障害になるかを知っていたんだ。

 でも、浅見さんは気づいているかな?

 私にとって、この距離が余計に思いを大きくさせているということを。

「バカだな……」

 自分に向かって思わず呟く。

 距離が離れ、時間が経つにつれ、気持ちが薄れるどころかいっそう色濃くなっていっている。
 こんな中途半端な思いを抱え続けるくらいなら、わがままを言って、ハッキリ断られた方がよかったじゃない。

 最後のキスが、いつまでも私を捕えて離さない。

 両手を顔で覆う。

 なによりも、自分に自信がなかった。どうしてあんなに私を必要としてくれたのか。何度か答えは聞いたけれど、どこか曖昧で抽象的な気がして。

 それをきちんと聞けば、もしかしたらなにかが変わっていたかもしれない。
 勇気を出して聞いていたら、あの手を取っていた……?

 女々しすぎる、と心の中で叱咤するも、手を顔から外せない。
 瞼を閉じているときだけ、彼が近くに見えるから。

 そのとき。誰もいないはずなのに、突然ぽん、と肩に手を置かれる。

 私は、パッと手を離し、後ろを振り向いた。

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