エリート専務の献身愛
 なかなか自分に自信を持つことは難しく、素直にいい返事をすることができず黙り込む。
 浅見さんは「ふ」と笑いを漏らした。身体を離し、なにやらポケットを探っている。

「瑠依はわかってないな。もっと自信を持っていい」

 スッと見せられた手に自然と目がいく。
 彼の手のひらには、見覚えのあるもの。

「これ――」
「返そうと思っていたんだけど……やっぱり少しの間だけ、借りておこうと思って」

 別れた前日に、浅見さんのホテルに忘れていたビジューのついたヘアゴム。
 何度か思い出してはいた。でも、持っていてくれるかもなんて微塵も思っていなかったから驚いた。

 浅見さんは私の左手を掬い上げる。

「七千七百キロもの距離で、オレはずっとキミに片思いしていたんだから」

 ビジューの飾りを上にして、薬指に通される。さらに、そっと口づけられた。

「片……思い?」
「そう。だからもう本当は、触れられる距離にいると思うと、閉じ込めたいくらい」

 腰を引き寄せられ、煌めく黒い瞳に酔わされる。

「近い将来、本物を贈らせて」

 指を絡ませ合う今が、まだうつつのよう。
 与えられる温もりも、綺麗な夜景も、甘い言葉も、まだ信じがたい。

 それすらも見透かすように、彼は言う。

「瑠依がオレにくれたように、今度はオレが瑠依に自信をあげるよ」

 片思いなんかじゃない。

 浅見さんの、美しく自信に満ちた瞳に惹かれた。離れても、忘れられなかった。

 ずっと、想っていた。

「ありがとう、ございます」

 あの日、声を掛けてくれて。苦しいときに助けてくれて。欲しい言葉をくれて。
 ……私を、見つけてくれて。

 うれしくて笑顔が零れる。なのに、なんでか涙も零れてしまっていた。
 浅見さんは涙を拭って、微笑んだ。

「こちらこそ、ありがとう」

 大切な人からの『ありがとう』はこんなにも特別な響き。

「瑠依。……愛してる」

 そして、甘い言葉は心の中心にじわりと浸透する。

 数秒後にやってくる幸せを掴まえに、私は背伸びをし、そっと瞼を閉じた。





 -本編 おわり-
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