エリート専務の献身愛
……だからって、本当にこれでいいのかな。
私は小さい頃から、ちゃんと私を見て欲しいって感じてきた。
自分がそう相手に求めるなら、私だって、どんな相手だったとしてもそうすべきだ。
由人くんとはうまく向き合えなかったけれど、仕事や、上司や先輩や……浅見さんにだって、きちんと正面から向き合わなければ。
クンと顔を上げ、大きく一歩踏み出す。
どんなに立場が違えど、相手を知ろうとすることは大事だよね。
大体、意識しているのは私だけって可能性もある。
昨日のキスも、向こうでは挨拶のようなものなのかもしれないし、『好き』のニュアンスもお互い思っているものと違うだけかもしれない。
頭の中でああでもないこうでもないと考えながら、横断歩道を渡っていく。
平静を装っているけれど、あのカフェが近づくにつれ、脈が速くなっている。
日課のような持ち物とスケジュール確認を怠ってしまうほど、意識はべつのところに向いていた。
彼がいるかどうか遠目から見て、距離が近くなると目を逸らす。
だけど、そこに彼の姿はなかった。
……バカみたい。ひとりで過剰になっちゃって。
カフェを過ぎたところで足を止め、つま先を見つめた。周りに人がたくさんいる中で、乾いた笑いを漏らす。
「よし」
グッと顎を上げる。いつもよりも少し遅くなったけれど、カバンのポケットを確認した。
必要なものはちゃんと持っている。あとは、自分の力を信じて前に進むのみ!
私はカバンを持ち替えると、口を引き結んで警戒にヒールを鳴らし始めた。