不安の滓
 真夜中にいきなり響き渡った大きな物音に驚いて飛び起きた男の妻が目にしたのは――家の隣に立つ杉の木に突き刺さる夫の車だった。

 どんな速度で突っ込んでしまったのか分からない。
 車のフロント部分が完全にひしゃげて無くなってしまっていた。
 同時に、ハンドルを握ったままの姿勢で――頭部が潰れている夫の姿が見えた。

 その場に、絶望感からヘタり込んでしまった男の妻。

 すぐに車に駆け寄れば、壊れた車から響いているラジオの音声に気が付いたかもしれない。
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