アフタヌーンの秘薬

「そんなわけない!」

「俺を利用したんだろ」

「聡次郎さんには言われたくないよ!」

利用したのはどっちだ。理解しがたい偽装婚約に巻き込んだのはどっちだ。

至近距離で怒りをぶつけ合う。こんなことになるなら月島さんにお弁当を渡さなければよかった。月島さんに恋愛感情はない。容姿が素敵だから惹かれたのは確かだけれど、一緒に過ごした時間が私の気持ちを動かしたのだと聡次郎さんには伝わらない。

「いいこと教えてやるよ。明人には彼女がいるんだよ」

そう言った聡次郎さんの顔は私をバカにする意地悪な顔だ。

「だから明人が梨香を好きになることなんて絶対にない」

言葉でも私を押さえつけようとする聡次郎さんに恐怖を感じた。

「残念だったな」

私を好きだと言った口が私を傷つける言葉を吐いている。今度は私が泣きそうになる。その潤んだ目を見ても聡次郎さんは冷たい顔で私を見下ろした。

「聡次郎さんをただ利用してるだけだったら今この部屋には来てない!」

「…………」

私の言うことなんて信じないと聡次郎さんの目が言っているようだ。それでも私は誤解を解きたくて必死になった。気持ちが通じ合ったと思ったらもう言い合いなんて馬鹿げている。

「私の気持ちは月島さんにはないの!」

「…………」

「月島さんのことなんて何とも思ってない……」

「もう明人の名前を言うな」

一層冷たい声に私は口を噤んだ。
涙が溢れそう。そう思ったとき聡次郎さんの体が再び私を包み、唇が強く私の唇に触れた。驚いて離そうとしたけれどいつかと同じように聡次郎さんの手が私の頭の後ろに回り、唇が離れられないよう押さえられた。

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