アフタヌーンの秘薬

愛華さんが聡次郎さんの部屋に来た日に「申し訳ありませんでした」と私に謝罪した。私と聡次郎さんの関係を知って邪魔したことへのものだと思った。けれどあの時の涙を愛華さんは違うエネルギーに変えたのだろう。

龍峯から私が消えれば聡次郎さんは愛華さんのところに行ってしまう。お茶も、聡次郎さんも、私が大事にしているものを愛華さんが手に入れる。

耐えられずすぐにその場を離れた。

聡次郎さんは愛華さんに興味がないと言っていた。その言葉で少しは気持ちが軽くなったのに、2人の姿を見てしまったら消そうとした嫉妬心はもう消えてはくれない。






聡次郎さんの部屋に戻って掃除をした。
私のアパートの何倍も広い部屋の床を掃除してくれるのはお掃除ロボットだけど、トイレやお風呂を掃除できるのは私だけだ。
聡次郎さんも家事をやってくれるけど、最近は忙しくてほとんど私だ。
今日はいつも以上に念入りに、隙間や棚の上の見えないところも丁寧に拭いた。最後に聡次郎さんが朝起きてからそのままになっている乱れたベッドを整えた。

今までお世話になった分だけ、こんなことしかできないけれど恩を返したかった。

このベッドで何度愛し合っただろう。どれほど聡次郎さんで満たされただろう。重ねた肌の感触も、囁かれた愛の言葉も全てがはっきり思い出せる。

ボストンバッグに入る限りの荷物を詰めて聡次郎さんの部屋を出た。
もっと早くこうしていれば誰も傷つけなかった。私がいなかったら全部丸く収まっていた。聡次郎さんと愛華さんは結婚して、奥様は怒ることなく安心していただろう。親子喧嘩しなくても済んだのだ。

彼からの愛を知ってしまったから出ていくことは辛いけれど、彼のそばに居ることはもっと辛い。
最初から最後まで聡次郎さんに振り回されっぱなしだ。これ以上傷つく前に早く離れなければ。
聡次郎さんの方から捨てられたら、私はきっと立ち直れない。

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