アフタヌーンの秘薬
「そうはいきません。嫁いできた女性は会社に尽くしてくれなければ」
「俺も梨香も、会社のためにいるんじゃないんだよ」
聡次郎さんは静かでも確実に怒りを含んだ声でお母さんに反抗した。
「では週に1回でも2回でも構いません。梨香さんの人柄と将来性を見るために本店で働いてもらいます」
こんな展開は予想していなかった。カフェの仕事を辞めるつもりはない。ここで働く気などさらさらなかったのに、聡次郎さんの抵抗にお母さんも折れる気配がない。
「社長、いかがしますか?」
月島さんの言葉に全員が慶一郎さんを見た。
「梨香さん、申し訳ないけど家族だけにしてもらえますか?」
「あ、はい……」
「明人」
「はい」
慶一郎さんが月島さんに声をかけると、月島さんは「こちらに」と私に立つように促した。
私は聡次郎さんと繋いだ手を自然と放し、立ち上がってご家族に頭を下げると月島さんについて応接室を出た。
ドアが閉まると月島さんが「すみません、奥様が失礼なことを申しました」と私に頭を下げた。
「いいえ、この会社に相応しくないのは自覚していますから」
「お待ちいただく間、簡単に社内をご案内します」
エレベーターに乗ると月島さんは1階のボタンを押した。
「気が強い人を探してた意味がわかりました」
私ではなく相沢さんのように口が悪く喧嘩っ早い方があのお母さんには対抗できただろう。
「でも気が強いとお母様はますます反対されたのではないですか?」
「奥様が呆れるほど嫌われるような女性を連れてこられたら尚良かったのですが、三宅さんが役不足なわけではないので安心してください」