アフタヌーンの秘薬

足を組んで座って待つ聡次郎さんの前に嫌みを込めてそう言った。
自社の商品を『粗茶』と言った私を気にすることもなく、聡次郎さんは茶碗を持ってお茶を飲んだ。

「………」

聡次郎さんと月島さんを緊張しながら見つめていると「まあまあだな」と聡次郎さんは空になった茶碗をテーブルに置いた。その評価に聡次郎さんが淹れたものよりはマシですと言い返したいのを堪えた。

「おいしいですよ」

月島さんは笑顔で言ってくれるから私も笑顔になってしまう。それがお世辞なのはわかっていても月島さんに微笑まれたら嬉しくなってつい笑い返してしまうのだ。
聡次郎さんはそんな私にまたバカにしたような顔を向けた。聡次郎さんの感想に不機嫌になった私は目を逸らした。

「誰に淹れ方を教わりました? 花山さんですか?」

「いいえ、川田さんです」

花山さんが教えてくれるわけがない。店舗のことはパートに任せたと言って川田さんに私を押しつけた人なのだ。

「川田さんですか。あの人にお茶を教えてもらうのはとても勉強になりますよ」

「そうなんですか?」

「はい、紅茶アドバイザーの資格を持ってますから」

「紅茶……」

耳慣れない資格だ。カフェ店員としてはコーヒーマイスターは知っているが紅茶にも資格があるなんて知らなかった。

「龍峯で紅茶の資格ですか……」

緑茶を多く扱っているのに紅茶の知識を持っていて役に立つのだろうか。

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