3度目のFirst Kiss
トイレに入り、鍵を閉めて気付いた。
自分が何も持っていないことに。

このままじゃ、帰れない。

財布も携帯も定期も、家の鍵だって、鞄の中だ。
極度の緊張で、後先考えられなくなっていた。

「私もまだまだ未熟だな。」

現実逃避に、どうでもいいことを呟いてみた。
今頃、どうなってるのかな?
もしかして、誰も信じないかもしれない。
だって、それは有り得ないことだから。

鞄、どうしよう?
店員さんに頼もうかな。
不審がられるかもしれないけど、背に腹は変えられ
ない。

ほろ酔いの頭で懸命に最良の方法を考えてみる。
答えなんて見つけられないけど。

私はできうる限りの勢いを付けて、トイレから出て
宴会場の反対側にある通路のソファに座った。
これが今、私の移動できる最長距離だ。

あぁ、神様。
私を地獄から救って下さい。。。

人は、日頃の感謝を忘れて、こんな時だけ、
神頼みをするものだ。
でも、そんな自分勝手を神様が受け入れてくれる筈もない。

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