Drinking Dance
だけれども、
「つきましたよ?」

星崎さんは私の手を離そうとしなかった。

「えっ…ああ、すみません」

星崎さんは我に返ったと言う顔をした後、手を離してくれた。

ああ、離れてしまった…。

まだ星崎さんの温度が残っている手を閉じ込めるようにギュッと握りしめた。

「手を離しただけなのに、こんなにも名残惜しいんですね」

そう言った星崎さんの顔を私は見つめた。

彼も私と同じことを思ってくれたことが嬉しかった。

「また明日」

「はい、さようなら」

私は改札口へ、星崎さんはその場から立ち去った。

虚しい…。

ポッカリと胸に穴が空いてしまったような気分だ。

何なんだろう、この気持ちは。

何とも言えない気持ちを感じながら、私はカバンから定期を取り出した。
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