ほしの、おうじさま
僅かなタイムラグの後、阿久津君はそう声を発しながら足を止め、右手のひらでバッと口元を覆った。
そして何故かその顔面が瞬く間に赤く色着いて行く。

「え?ど、どうしたの?」
「こっち来んな!」

阿久津君はキレ気味に叫びながら後方に向かって歩き出し、私から3メートル以上は離れた位置にまで遠ざかった。

「なっ」

ひ、ひど…。

「俺の心を読むな」

その言葉で、先程のそれは阿久津君の心の声であった事に気が付く。

「俺より先に、俺の本音を察知してんじゃねーよ」

「……え?」

「ちゃんと口で言うから」

そこで阿久津君はとても真摯な表情になった。


「どうやら俺は、いつの間にか、お前の事が好きになっちまったらしい」

「……なにそれ」

身構えながら彼の言葉を待った私は思わず拍子抜け。

なんで「どうやら」なの?
なんでそんな推定の、手探り状態の告白なの?

そんな風に心の中で突っ込みを入れつつも。

私は思わず笑みを溢してしまっていた。

「……何笑ってんだよ」

「いや、だって」

更に可笑しさが増して行き、笑い声も発してしまう。

「なんか、いかにも阿久津君と私らしいドタバタ感だな~と思って」
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