雪月花
◇◇◇
 彼が実家へ休暇で帰っていると聞いたのは、その日の午後だった。今日は朝から曇っていて、天気予報でもやがて雪になるでしょう、なんてアナウンサーが予報していたくらい寒い日。


 こんな日は、家でぬくぬくのんびりしている方がいいに決まってる。でも私は、じっとしていられなくなった。彼が私に会いに来るなんて事は絶対に無い。だから私は、買い物に行くといういい加減な理由をつけて家を出た。


 彼と私はいわゆる幼馴染みだった。しかし年は彼の方が上で、私が仲良くしていたのは自分と同い年の妹の方だったのだが。


 彼とそれほどたくさん接した記憶は無い。それでも私の中に、幼い頃の彼の顔がまだ鮮明に残っていた。




 買い物をする予定なんて無かったから買うものもなく、ただフラフラと彼の実家のある駅前を歩いていた。幼馴染みの家へ行った方が早いのだろうが、私には会いに行く理由をでっち上げる事すら出来なかった。

 そのうちに予報通り雪が降り始め、それを避ける物を持っていなかった私は、花屋の軒先で暫くそれをしのぐ事にした。
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