all Reset 【完全版】

 強気と弱気





翌日。


今日も日差しが眩しい晴れの天気だった。


授業も終わり、俺はとっとと帰ろうとキャンパスを歩いていた。


そんなとき、コツコツとヒールの音が自分に近付いてくるのに気付いた。


振り返ろうとしたそのとき、左腕に細い指が絡み付いた。


「やっと追い付いた!」


少し息を切らせながら嬉しそうにぴったりくっつく。


尋乃だった。



「おっ、びっくりした……今帰り?」


笑って訊いてみたものの、自覚できるくらい薄っぺらい笑みが浮かぶ。


尋乃とは今日は同じ授業じゃなかった。



「はい。先輩もですか?」


「おぅ、今日は二限だけだったから」



絡まる腕に妙に違和感を感じる。



どうして付き合ってるんだ?



未だにそう思うことがふとした瞬間にある。



「昨日、亜希先輩に電話しちゃいました」


「えっ? 亜希?」


「ほら、昨日前田先輩が言ってたじゃないですか? 亜希先輩がサークル入ってるって。だから、訊いてみようと思って」


「ああ、何か言ってたな」


「あー、でも……何か悪いことしちゃいましたよ」


「……悪いこと?」


そのフレーズに疑問符が浮かぶ。


一人気まずそうな顔をする尋乃の顔を見下ろし、俺は首を傾げてみた。


「あ、はい。亜希先輩、サークル辞めるかもしれないらしいです」


「え?」


「サークルの先輩ですよ! 顔合わせたくないみたいですね」



……先輩?


顔、合わせたくない?



……何の話だ?



「まぁ、別れた人がいたら、そりゃ会うのとか気まずいですよね?」



……は?



「……別れた?」


「えっ、良平先輩……亜希先輩から聞いてないですか?」


俺の顔を見上げ、途端に困り顔になっていく尋乃の顔。


真顔のままその目をじっと見つめると、尋乃は顔をひきつらせて作り笑いを浮かべた。



「ほら、サークルの先輩と……付き合ってたっていう話ですよ?」



……は?



尋乃の声が頭の中をぐるぐる回る。


話の内容を理解したと同時、次々といろんなことが頭を巡った。



亜希が自分に何も話してないこと。


付き合った男がいたこと。


自分が何も知らなかったこと。


頭が一気に混乱の渦に飲み込まれていった。


< 19 / 419 >

この作品をシェア

pagetop