all Reset 【完全版】



「大切なことは、周囲の人間が今までの生活に戻れるように手助けしてあげることです。忘れてしまった言葉も、物も。また一から彼女に教えていく。亜希さんはまだ若いですから、覚えることは難しいことではないはずです」


先生は椅子から立ち上がるとレントゲン写真を外し始めた。


その事務的な動作に苛立ちを感じる。



「亜希さんが慣れ親しんだ場所に連れて行ってあげたり、好きだった物や音楽などを見せたり、聴かせることで、記憶が蘇る場合もあります。一番の治療法は、そばの人のサポートだということを忘れないでください」



整えたレントゲン写真を手にし、先生はまた改まった姿勢で椅子に腰掛けた。



「ただ、決して記憶を無理に思い出すように問い詰めたりはしないこと。混乱して、パニック状態になったりする可能性があります」



――ガタンッ!!



先生がそう言い終えたと同時だった。


派手な音を立てて椅子から立ち上がり、秀が部屋から飛び出していった。


バタンと響いたドアの閉まる音に、一気に現実に引き戻される。



「あっ、すみません、失礼します」



俺も勢いで立ち上がっていた。


秀が心配だった。


< 65 / 419 >

この作品をシェア

pagetop