all Reset 【完全版】



「亜希の爪ね、絵が描いてあったんだよ」


俺の横に座った亜希は、ふさふさした赤いハート型のクッションを抱え、手を差し出してそう言った。


亜希がそんな話をしてきたことに、俺と良平は自然と顔を見合わせていた。



憶えていたという。



今日亜希の家に来ると、おばさんが真っ先にその話をしてきた。


すぐにでも報告したい。


そんな様子で話し始めた。


退院してから、おばさんは亜希を連れ、伸びた爪を取りにいつも行っていたネイルサロンに出掛けたという。



「ネイルアートのことと、いつも担当してくれていた人のこと。あの子、憶えていたみたいなの」



おばさんは俺らにそう言った。



「憶えていたんじゃなくて、思い出したのかもしれないわね」


とも言った。



信じられなかった。


亜希の失われていない記憶があった。


それとも、失われていた記憶が何かの拍子に蘇ったのか……。


それはわからない。



でも、とにかく驚く話だった。



「爪がね、キラキラしてて綺麗なんだよ。ツヤツヤしてるの」


何も無くなってしまった爪を示して、亜希は普通に話している。


「ネイルアートって知ってる?」


目を輝かせて亜希は俺の顔を覗き込んだ。


「知ってるよ。亜希がよくやってたから」


そう言うと、亜希は満足そうな顔をして自分の手を見つめた。


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