最期の時間を君と共に
そんな時、お父さんは言ったそうだ。“どこか、綺麗なところへ行きたい”と。お母さんは、それに付き合ったそうだ。もう、お父さんが終わりなこと、気づいていながらも。必死に、笑顔をつくって。お父さんが笑ってくれるように――。

次の日、お父さんは優しい顔をして亡くなったそうだ。葬儀やらなにやら、私をお腹に抱えながら辛かっただろうに。それでも、お母さんは私を産んでくれた。涙を流す暇もなく、新しい命を誕生させてくれたんだ。

そして、なんと。“ゆずき”、この名前はお父さんがつけてくれたみたいなんだ。

『ゆずき、がいいなあ……。ゆずって、黄色で眩しい色だろう……?希望をもって生きてほしい……。明るく、育ってほしい……』

お父さん。あなたの望んだ子に私はなれているかなあ。

「さ、ご飯作らなきゃね。またね、お父さん」
< 30 / 281 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop