1ページの物語。
-大人になんてなりたくない-



「大人になんてなりたくない」


「…ピーターパン症候群?」


「そんなんじゃない」


「じゃあなんなんだよ」


「大人になったらさ…色々我慢しないといけないこともあるし、今の状態から色々変わるでしょ?…そうなっていくのが嫌なの」


「例えば?」


「例えば……こうしてあんたと一緒に話したりするけど大人になったらあんたの彼女や奥さんに気を使って一緒にもう過ごせなかったりするでしょ?

逢いたくなっても逢えないし、相談したい事があっても相手のパートナーに気を使って自重してしまう。

男女の友情なんて大人になったら保てないよ」



そう、保ちたくても周りの第三者たちは許してくれないだろう。


「本当お前ってネガティヴだよな」


「うるさいな」


「確かにそうやってお互い相手ができて距離が離れていくかもしれない。

けど、その時にはもうお互いがお互いを必要としてないんじゃないのか?」


「え?」


「きっとお互いパートナーに弱音を吐いたり、相談したりしてるよ。

だから、ただ俺から彼氏に、お前から彼女に話す相手が変わるだけどだよ」


「それもそれで寂しいよ…」


それに先にそんな人を見つけたとして、残された方は?

辛いだけじゃない。


「今はそう思うかもしれないけど自然とそうなってくさ。

それでフとした瞬間、この会話を思い出してさ、あいつの言う通りになったなぁてきっと思うさ」


「ならないよ…だってあんたは私にとって唯一の男友達で、大切な存在だもの」


「何だか今日は可愛い事言ってくれんじゃん。

でも、それが大人になってくって事なんだよ」


「分かりたくないな…」


…………___________



あれから5年経った私のスマホにあいつの連絡先は入ってない。


高校を卒業し、会う機会も減り、それも年を追うごとに無くなっていった。


5年前の私だったらきっと今の状況を知ったら驚きと寂しさを感じていただろう。


でも世間から大人と言われる年になった今の私はそんな寂しさを受け止めないといけない。


これがあいつが言ってた大人なのだろうか。


風の噂で聞いたあいつは生涯を共にするパートナーを決めたと聞いた。


そんな噂を聞いて私は機種変しても6年前から変わらなかった待受画像を変えた。


連絡先が分からなくてもいつか再会し、また相談したり愚痴り合ったりする関係に戻れると信じ、そして願っていた。


だって私たちはお互い大切な存在だったから。


「そう…思ってたのは私だけだよね」



待受は変えたけどずっと残していた画像を開く。



2人で手を繋いで歩く後ろ姿。


友達が仲良すぎでしょと内緒で撮っていた画像。


そう、大切な存在。


あいつからしたら唯一な女友達。



でも、私からしたら大切な大好きな人だった。



大人になんてなりたくない。

今なら素直に気持ちを伝えられるのに。



恥じらいもなく、あんたと離れたくないから、好きだからあんなこと言ってたんだよと。


そう言えるのに。



街中に雪が舞う、あの会話をした季節だ。


私は毎年あの会話に心の中で反論をする。


まだ必要としてるよ。


あんたの言う通りになんてなってないよ。


寂しいよ、と心の中で。


そう、大人になった私は大人になった私の気持ちは伝える勇気は出ない。



だから私は大人になんてなりたくない。



こんな弱い自分と向き合わないといけないから。


そう、私はもう無垢な振りして現実から逃げれる18の頃の子供とは違うのだから。



【大人になんてなりたくない】

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