花京院社長と私のナイショな関係
そんな泥仕合をどれくらい続けたんだろう。
殴って蹴って、顔も髪もぐちゃぐちゃ。服はあちこちが破れて全身がボロボロだった。
篤人さんは顔を殴られたりはしてなかったけど、星野くんは操られ効果が発動してしつこく粘っこく攻撃していたから相当手こずっていたみたいだった。会社の危機でここ数日、休めていないところにこの取っ組み合いだからさすがに疲労困憊している。

雪乃さんはドロドロの黒い悪霊をあらかた剥がしたところで、ようやく大人しくなった。
操られていた星野くんも、雪乃さんに連動するように動きが止まった。
目はうつろだけど、顔色がだいぶ戻ってきている。
彼自身の黒い靄はだいぶ薄くなっていた。残りは手を握って吸い取って浄化する。
どうか、元のいい人の星野くんに戻りますように。
私の体の中に黒い靄が吸い込まれていくと、星野くんは意識を失って倒れた。

身に纏った悪霊をはがれた雪乃さんは、人形のように動かなくなった。
だいぶ元の姿になってはいたけれど、目は空洞で口は裂け、青白い顔は異形のもののままだった。


「これが限界やろ。ほな、あとは連れて行くわ」

サングラスはひび割れ、ヒョウ柄のズボンが片方短パンになってしまったおっさんが、ふらつきながら立ち上がった。

「連れて行くって…雪乃さんをどこに連れて行くの?」
「あっちや。あとは長月んとこに始末つけさせるわ。でかい貸しや。あとで利子つけて返してもらうで」

おっさんは悪徳商人のようにニヤニヤ笑っている。長月家のご先祖さまをゆする気なんだろうか。

「それにゴミ出しせんといかんしな」

顎で指した先にはぎゅっと縛った緑色のゴミ袋がふたつ。中身はドロドロの悪霊がぎっしり詰まっている。
悪霊ゴミってゴミの回収日があるのか聞いてみたら、悪霊は持ち込み制なのだそう。
ツッコミ入れたくなったけど、あの世のことはこの世の人間が知るべきことじゃない、よね。

「ほな、帰るわ」

おっさんの両手には雪乃さんの襟首とゴミ袋。ちょっと重そうに引きずっている。

「何時こっちに戻る」

「戻らん。今回はよう働いたから帰ってゆっくりするわ」


おっさんはさらっと言うけど、急なことに篤人さんも私も呆気にとられた。


「しばらくしたら、またこっちに来るよね?」

「いや、もうええやろ。お前がおるし、こいつは大丈夫や」

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