魔法使い、拾います!
マーケットは見ているだけでも楽しくてつい足繁く通ってしまいたくなる。そんな自分を戒めるため、月に三回までと決めているお出かけなのだ。リュイの心が弾むのも無理はない。

ハラにはカタの店とは比べ物にならないほど品物が溢れ活気に満ちている。マーケットともなれば尚更だ。

島国であるこのルトアンゼ王国は海外の近隣諸国の品を流通させる役割があるため、マーケットとは各国の品をつなぐ問屋と言っても過言ではない。その貿易による富は、小さな島国ルトアンゼ王国を大国と言わしめる宝石であった。

小一時間をかけ王都に到着したリュイは一刻も早く目的地へと向かうため、店と店の間を抜けて路地裏に入った。

「うぅ…痛った…。まったくアイツらときたら…手加減ってものを知らないんですかねぇ…。」

いつもなら人っ子一人見かけたことのない路地裏に、今日は珍しく人の声がする。そして声の主を確認したリュイは思わず引き返しそうになった。

なんと声の主は藍色のマントを羽織った青年ではないか。

藍色のマントを羽織っているということは、ルトアンゼ王国の国民ならば知らない者はいない。憧れの『魔法使い』様である。

この国における魔法使いとは、選ばれし一握りの者に与えられた称号だ。特別な訓練を受け魔法を体得した王の守護役で、誰でもなれるわけではない。だからこそ王族と同じく扱われ、一般庶民が気安く近づけるような存在ではなかった。

しかし、うめき声をあげながら地面に横たわり、リュイの視界の中で苦悶している光景がそこにある。彼がどんなに偉い魔法使い様だとしても、見て見ぬふりなど出来はしない。

リュイは勇気を出して少しだけ近付き、遠巻きに彼を覗き込んでみた。

「あの…大丈夫ですか?」

うめき声からも分かるように、彼はかなり痛そうだ。マントは土埃にまみれ、額からは血が滲んでいる。そんな彼がちらりとリュイを見やり辛そうに問いかけに応じた。

「あぁ…親切なお嬢さん。声をかけてくれて感謝します。
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