魔法使い、拾います!
理由を聞いたリュイは酷く後悔した。ケガをした原因を知っても、ヴァルの心痛を思いやることが出来なかったのだ。どうしても『ティア』という名前の方に強く反応してしまい、婚約者という単語に衝撃を受けてしまうのだ。

強引に理由を言わせたのは自分なのに。その理由を聞いて、ティアという婚約者を想うヴァルに腹が立つなんて……。リュイは自分の身勝手さに嫌気がさした。

「あっ、すみません主。つい感情的になってテーブルを叩いてしまいました。」

体を硬直させているリュイを見て、ヴァルは慌てて謝った。自分の態度がリュイを怯えさせてしまったと勘違いしたのだろう。

「違う、違う、そうじゃないよ……。ティアさんのことを思うと冷静でいられないというか。」

そう聞かれ咄嗟に正直に話してしまうあたりは、これからリュイが改善していくべき課題である。正直である事が、必ずしも正しいとは限らないのだ。言いたいことを言っても許されるのは、片手の年齢の子供までだろう。

ちくりと痛むこの胸の苦しさは何だろう。確実にティアという婚約者の存在を聞いた事が原因と思われるのだが。リュイはこんな痛みを経験したことがなく、無意識に手のひらで胸の真ん中をさするしかなかった。

「え……?あぁ……。気にかけてくれてありがとうございます。僕もティアが辛い思いをしていないかと、とても心配です。」

ちょっとした思い違いが起こっているようだが、それならそれでいい。むしろ自分のモヤモヤしている気持ちを悟られていないようで、逆にほっとする。

勘違いさせて悪いことをしてしまった気分になるが、今はそのままで居てもらおう。リュイにはヴァルを責める気も、困らせる気も全くないのだ。

「主がティアの心配をして下さるのなら、ここに至るまでの経緯を全てお話しします。」

モヤモヤした気持ちのままで今リュイに出来ることといえば、とりあえずヴァルの話を聞くことくらいであった。
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