魔法使い、拾います!
不安な気持ちが伝わったのだろうか。ヴァルが済まなそうな顔をしている。

「主、僕のために大事な友人に無理をさせないでくださいね。」

ヴァルの言葉に、グレンの眉がピクリと動いた。

「だったらお前一人で動けよ!魔法使えるんだろ?」

どうにもこうにもグレンはヴァルの存在が気に入らないらしい。何かとヴァルに突っかかる。

「今ヴァルは魔法を封印していて使えないの!意地悪言うなら帰っていいよ。」

グレンに冷ややかな視線を送り、リュイはさらっとヴァルの味方をした。

「何だよ。帰るならそこに居る、お偉い魔法使いの方だろ。」

ふんっ!と、鼻息を荒くしてグレンはそっぽを向いた。

「はぁ?それが出来るならヴァルはとっくに婚約者の元へ帰っているよ!頭悪いんじゃないの?」

夫婦漫才のような二人に、見ていたヴァルが声を出して笑った。初めて聞くヴァルの笑い声である。今までは静かに微笑むくらいだったのに、何だか嬉しい。でも急に恥ずかしさがこみあげてきて、慌てて話を本題に戻した。

「じゃあ聞くだけ聞いてみようか。スパイまがいの事を頼むのも気が引けるけど。ララを頼るしか思いつかないもんね。」

「ティアの居場所を特定できれば、後は僕が強行突入します。ララさんが知っている内情を教えていただきたい。」

根っからの兄貴気質なのであろう。不本意ながらもヴァルを気遣い、グレンが豪快に言ってのけた。

「まぁ、心配すんな。その情報を知っているかどうかは分からないが、ララはリュイの頼みなら協力してくれると思うぜ。しかし、こんな出来すぎたタイミングってあるもんなんだな。」

グレンはそう言うと表情を急変させ眉間にしわを寄せた。

「それよりさ、お前今晩も泊まるのか?俺ん家に来いよ。客室あるぜ。」

そんなグレンの心配と嫉妬の言葉にリュイは耳を貸さず、仕事が山積しているというグレンを階下へ追いやった。不本意そうに「じゃ、また明日な。」と言い残し、名残惜しそうにグレンは帰って行った。

台風が通過した後のような静けさがダイニングに流れる。ヴァルの方を向くと紺碧の瞳と目が合って……。リュイはなんとなく微笑んでみた。
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