魔法使い、拾います!
「ち……違う、違う!グレンがだめなんじゃないよ!私の気持ちの問題だよ。だめどころか、グレンは最高のお兄ちゃんだよ!」

グレンの『だめ』という言葉に反応して、リュイは慌てて『だめ』だけを否定したつもりだった。

「はは……。参ったな……。」

リュイが天然なのは百も承知しているが、今の答えはあまりにも正直すぎる。この期に及んでお兄ちゃんと言われては、さすがのグレンも笑うしかない。

くすくすっと笑うグレンに、リュイは不思議そうに小首を傾げた。

「私、何かおかしなこと言ったかな?」

「いや……。キスすればお兄ちゃん役から卒業できるかなと思ったけど、リュイの気持は変わらなかったな……って思ってさ。やっぱりおでこじゃなくて口にしておけば良かったよ……キス。」

「く……口!?無理!無理!無理!キ……キスなんて……は……初めてなのに……。おでこでも十分動揺したんだから!」

「だろうな。……で?ヴァルには何をされて意識するようになったんだ?」

「な……何もされてないよ!されるわけないじゃん!ヴァルには婚約者がいるんだから。でも、強いて言うなら……。目が合ったことかな……。今にして思えば、たぶんヴァルの紺碧の瞳を見た時だと思う……。」

リュイは一旦言葉を区切って空を見上げた。そして恥ずかしそうにグレンに向き直る。

「……一瞬で、ヴァルの瞳に吸い込まれちゃったんだよね。」

照れているのか、それともその時のことを思い出しているのか。リュイがグレンに向けている笑顔は、今まで一度も見たことのない、恋する女性の表情だ。グレンは、リュイのこんな表情を引き出したヴァルを心底憎らしく思った。

「そうか。」

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