ベターハーフ(短編集)



「槙村」

「なんだよ」

「婿養子になってよ」

「はあ? なんで」

「だって槙村と結婚したら、槙村真希になっちゃうもん。名前がマキマキしちゃう」

「間に村が入ってるんだからいいだろうが」

「でもあんたが長年言い続けたハラマキネタ、使えなくなっちゃうよ?」

「いいよ別に。好きで言ってたわけじゃねえし」

「好きで言ってたんでしょ、わたしのことが」

「うるせえマゾ女」

「いじめっこめ」

 腕を伸ばして槙村の首に回すと、やつは覆いかぶさるようにわたしを抱き締め「あのときはごめん」と呟いた。
 改めて謝らなくても、気にしていないのに。むしろ気にしていたのなら付き合っていない。そんなにマゾじゃない。

「わたしも、平手打ちしてごめんね」

「超痛かった」

「自業自得っていうんだよ」

 槙村の背中をぽんぽん撫でながら、もう一度手のひらを見た。

 十五年前の初恋は、ますます忘れられないな。これのお陰で、大好きな相手と結婚することができるのだから。





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