ハルとオオカミ


話し終えたあとも、彼女は私になんて言葉を返そうか迷っているようだった。私はお弁当を食べながら、「あのね」と切り出した。


「アキちゃんって、ジンさんのこと、好きだよね」

「え? そりゃ……好きだけど」

「それはファンとして、だよね」

「……まあ、それはそうだよ。相手は芸能人だし、本気の恋とか不毛すぎるもん」

「……そうだよね……」


叶わないってわかってる恋。そんなの、きっと辛いばかりだ。

彼と私の間にある隔たりを感じては、落ち込むだろう。

『はるは俺とは違う』って。五十嵐くんの口でそう言われてしまったら、立ち直れない気がする。

初めから住む世界を分断されてしまったら、これ以上近づけないよ。


黙り込んだ私を見つめて、アキちゃんはしばらくポカンとしていた。

だけどやがて勢いよく席を立つと、机をバン! と叩いた。


まるで、私の目を無理やり覚まそうとするみたいに。



「ちょっとはる、冗談でしょ!? ジンとあいつを同じだと思わないでよ!」



私は目を見開いて彼女を見上げた。アキちゃんは怒っている。……ちょっとだけ、つらそうな顔で。

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