ハルとオオカミ


ぱちん、ぱちんと資料を留めるホッチキスの音と、シャーペンの音だけが響く。


時折なんとなくうしろを振り返って彼の様子を見てみたり、橙色に染まっていく窓の外を眺めてみたりした。


……ああ、いいなあ。

こんな時間が、ずっと続けばいいのに。



「はる」



世界でいちばん好きな声が、私の名前を呼んだ。


それだけで胸の奥がぎゅって締め付けられて、くるしいほどの愛しさが私を襲う。


窓の外を見ていた視線を外すと、私は目を細めて五十嵐くんの方を見た。


「なあに」

「ここ。わからん」

「えーっと……これ、昨日の授業でやったよ?」

「えーマジ? 寝てたかも」

「もー」


あはは、と笑いながら、できるだけ丁寧に解き方を教える。

その間、五十嵐くんは難しい顔をして問題文を真剣に見ていたけれど、私は五十嵐くんばっかり見てた。


この素敵なひとがそばにいる今を、一瞬でも見逃さないように。心の中にしっかり留めて、いつでも見返せるようにするために。




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