王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


「もう……充分すぎるくらいですよ」

最初こそ、なんだか胡散臭く感じて信じられなかったけれど。この人に与えられたモノは、もう手に余るほどある。

夜空をたくさんの流れ星が落ちてくるみたいに、全部がキラキラしていて目が離せない。

「でも、キスとかさらっとするのはやめてください」
「ん? なに? クレアの髪の香りがあまりに俺を魅了してくるから聞こえなかった」
「離してくださいこの変態」
「んー、褒め言葉として受け取っとく」

たとえ、どんな運命が待っていようとも、この二十日間でもらったものは素敵すぎるから、心の底から充分だと思えた。

この人がくれる笑顔や言葉。一緒にいるだけで柔らかくなる雰囲気。
その全部が、溢れるほどの幸せに思えるから。

本のなかでは、こういう感情をなんていったっけ……。

いまだ、私を抱き締めたまま離そうとしないシオンさんの肩におでこを寄せながら考えた。

胸が、ドキドキしていた。





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