久遠の絆
たらいの中で石鹸の泡が弾ける。


時折しゃぼん玉となって空に飛んでいく。


(空……と言っていいのかな?)


見上げても、ずっと上の方まで淡い光に覆われていて青い空というものは見えない。


果たしてここが外か屋内なのかもよく分からない。


一旦止めていた手をまた動かし始める。


ここに滞在するようになってから、蘭の立場はまるで小間使いだった。


シェイルナータに言いつけられた家事雑事をこなすだけの毎日。


今も井戸端で洗濯中だ。


洗濯機すら使ったことなく、ましてや洗濯板などその存在すら知らなかった蘭は、シェイルナータが満足する洗い上げにするまでに数日を要した。


布を傷めないように、それでも汚れは綺麗に。


その力加減に気を付けながら思った。


(カイル、どうしてるかな?)


あの日彼が一人ここを去ってから、音沙汰はなく、戦況もどうなっているのかまったく伝わっては来ない。


神官たちもここを訪れることはなく、シェイルナータによれば朝も夜もなく祈りを捧げ続けているのだという。


蘭が救い手として神に召されたと信じたまま。


(見つかったら、叱られるどころじゃすまないよね)


そうなったら、どうなるんだろう。


きっとシェイルナータがまた上手く切り抜けるのだろうけど、それでも無事ではすまないのではないかと思う。


(まあ、起こってもないことであれこれ悩まなくてもいいんだけど、さ)


「その通り」


耳元で聞こえた声に動きが止まる。


恐る恐る振り向くと、すぐ傍にシェイルナータの顔があった。


「わっ!」

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