久遠の絆
気付くと記憶の途切れている時があった。


それはいつごろからあったことなのか。


はっきりしたことは思い出せないが、ガルーダを建国してしばらく経ったくらいだったか。


当初は思い過ごしだと気にもしていなかったが、あまりにも頻繁にそんなことが続くと
さすがに心配になり、ヘラルドに相談してみると、

「何も、心配されずとも大丈夫です」

と苦い笑みを浮かべながら言ったのだ。



(何か隠している)



分かったけれど、あえて追求するようなことはしなかった。


なぜなら、目前に帝国との戦いが迫っていたし、何より自分をこれ以上不安にはしたくなかったからだ。


腹心の部下が『何もない』と言うのなら、例えそれが嘘だと分かっていても信じよう。


でなければ、冷酷無比の総帥などやっていかれなくなる。


シド・フォーンは敵からも味方からも恐れられる存在でなくてはならないのだ。


だからシドは、自らの不安を強引にねじ伏せた。


しばらくしてヘラルドが、屋敷の敷地の最奥に隠れ家を造ったと報告した。


「隠れ家?なんだそれは」


憮然として言うシドに、


「あまりに激務でいらっしゃる総帥に、心身を休めて頂くための家でございます」

とヘラルドは表情ひとつ変えず言った。


「そんなもの、俺には必要ない」


「いいえ。誰しも一人になりたいと思うときはあるはずです。まして総帥はまったくと言ってよいほど、プライベートのないお立場。
それでは如何に総帥と言えども、いつかお疲れになってしまうでしょう。ですから」


「俺を見くびるな、ヘラルド」


「見くびってなどおりませぬ。ただ純粋に、私は総帥のプライベートな空間を作って差し上げたいと思った。それだけです」


シドは考えるようにヘラルドの顔をじっと見ていた。


この抜け目のない参謀のことだ。


きっと何か裏があるに違いない。


けれどしばらくしてシドは、「わかったよ」と溜息混じりに呟いたのだった。

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