久遠の絆
馬上の人はそこから降りることなく、馬の進むままに任せている。


白馬が完全に闇に消えた。


岩山は何もなかったように、静寂に包まれていた。










白馬はずんずん洞穴の奥へと進む。


どこまでも続く深い洞窟だった。


足元には大小さまざまな岩が転がっており、足場はけして良くなかった。


だが、馬はそれを物ともせずに進んでいく。


やがて。


その岩が徐々に姿を消していき、明らかに人の手によって舗装されたと思われる道へと変わっていった。


左右の壁も天井も、剥き出しの岩は姿を消し、滑らかな表面に変わっていた。


すると闇の中にぽつぽつと明かりが灯るようにもなってきた。


壁に等間隔に設置された燭台だった。


その明かりに勇気付けられたのか、馬の歩調が速くなる。


そんな愛馬をなだめるように、馬上の人は馬の首元をぽんぽんと叩いた。


「もう少しだから、焦らなくていいよ」


少し低めの、落ち着いた声だった。


「シャルティさん、おかえりなさい!」


馬の首を叩きながら前へと進んでいると、そちらの方から掛けてくるひとりの若者があった。


「ただいま」


シャルティと呼ばれた馬上の男は、その時初めて頭に巻いたターバンを外した。


露わになる彼の顔。


透明にも見える灰色の瞳が印象的な、彫りの深い整った顔立ちをしていた。


長い黒髪を後ろでゆるく束ねていて、それを左の肩の前へと流している。


ひらりと馬から飛び降りると、迎えに出てきた若者とは随分身長差があった。


シャルティはかなり長身の、美丈夫だった。


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