ホテルの“4つのクリスマスストーリー”

冷静になろうと急いで真顔を決め込むと、その男性はふにゃっと顔を崩して笑った。

普通にしていたら少し怖いとも言える顔立ちなのに笑った途端に目が細くなり、なんだか赤ちゃんみたいで可愛い。

“ズキュン”。と自分の胸のあたりから聞こえたような気がするやいなや、警戒心があっという間に崩れていくのがわかった。

彼氏もいないし、見た目も雰囲気もしゃべり方も、正直タイプど真ん中だし、強めのカクテルでいい気分だし、たまにはこういうのもいっか・・・。


気がゆるゆると解けていくのと同時に、ベストタイミングで彼がわたしの空いたグラスを指差す。


『何か飲む?』

「・・・じゃあ、あと1杯だけ」


テーブルを挟んでわたしの前に彼が座り、一気に目線が同じ高さになった。

香水と柔軟剤の混ざったような嫌味ない香りがわたしの鼻先へとたどり着く。

上半身は決してガッチリしているわけではないのに肩幅があり、全体に程よく筋肉の付いている様子がシャツの上からでもわかる。

袖から顔を出す比較的大きな彼の手は、わたしとは違う性別であることを主張しているようだった。


久々に男の人とこんな場所で向かい合わせになっているせいで、意識しすぎてしまう。いけない、いけない・・・。


夜景とお酒とトキメキとで無意識に気分が高揚していたわたしは、まるで昔からの友人と再会した時のようにたくさんの話をしてしまった。

何も知らない相手だからこそ言えることがたくさんあったし、拙いわたしの感情説明も全て理解してくれる彼の聞き役っぷりが心地よかったというのもある。


『またここで会えるかな?例えば、来週の金曜・・・とか』


わたしの 表情を窺うように、彼が少し上目遣いでこちらに視線をやる。


「・・・クリスマスのカクテルが飲みたいので、多分ここにいると思います」


『じゃあその時はまた、俺にご馳走させてよ。ちょっと早いけど、クリスマスだし』


今日初めて会ったのにこんなこと言ってくるなんて、よほど女慣れしているにちがいない。

だけどもうこの人の魅力に押し切られて、断れない自分がいた。
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