100回の好きの行方
ー素直になれない恋ーの行方
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 もう何度目だろうか。切れては鳴り、切れては鳴りを繰り返すケータイの着信を、麻嘉は兄とともに聞いていた。

「……出なくていいのかよ。」

「……うん。」

「そのわりには、チラ見してんじゃん。」

 兄、嘉也に図星をつかれ、気まずそうに視線をさ迷わせる。それもそのはず。本当なら飛び付きたいほど、嬉しい人からの電話だから。

 麻嘉は、篤人からかかって来ている電話を、ずっと出ずにいるのだ。

「出ればいいのに。」

「……うん、でも、出たら諦められなくなるから……。」

「諦めないって言ってたのは、どこのどいつだよ。」

 兄は麻嘉の前だけは碎けた感じで話をするが、普段は丁寧な話し方であるため、麻嘉と話しているときは誰もが嘉也のことを二度見する。

 嘉也はここ最近の麻嘉の様子を見て、勝手に旨く行っていると思っていたのだ。

 台風の後、うっかり見てしまった背中のキスマーク。

 背中の空いた服にカーディガンを羽織る一瞬だが、相当ついていたのをみて、男の影が全く見えなかった麻嘉にも漸く春が来たかと、嬉しくなったのを覚えてる。

 だが、その後、会社の生け花をしなくなったり、新人が配属されたことが原因なのか、心から笑わなくなったような気もしていた。

 仕事魔の麻嘉が、夜、デザインを考えなくなったのも不思議に思ったが、本人はただ笑っていた。

 かと思えば、知り合いの結婚式に行くのに朝早くから弁当をつくり、友達がセットに着ていた。
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