ある雪の降る日私は運命の恋をする

治療

今日から朱鳥の治療が始まる。

朱鳥もとうぜん不安そうで、見ているだけで心苦しかった。

やっぱり、初めて無菌室に入る人は、相当ショックをうける。

幽閉されているような感じがする。

そう言ってる人もいた。

ここでは、むやみに俺たちも朱鳥に近づけない。

物も消毒しないと持っていけない。

全てが規制されて、きっとかなりキツイはずだ。

これは、朱鳥のため。

そう、何回自分に言い聞かせたことか……

「朱鳥、じゃあ、まずは、軽い診察をしてから吐き気止めの点滴をするね。抗がん剤は1時間くらいしたら、始めようか。」

朱鳥は、目にいっぱい涙を貯めてフルフルと小さく震えている。

…ごめんね朱鳥……

「朱鳥、服まくって?」

一つ一つの動作が弱々しくて、こっちまで胸が痛くなってくる。

「うん。おっけー、じゃあ、朱鳥、今から点滴するから、手、出して?」

「…ゃ……ぃゃ…………」

目に貯めていた大粒の涙をポロポロと零し泣いている朱鳥。

「…ごめんね…………」

もう、そんな言葉しか掛けてあげることができない。

ものすごく、胸が痛いけど、心を鬼にして、朱鳥の手を取る。

「朱鳥、刺すよ」

「ゃぁ…」

出来るだけ痛くならないように点滴を刺す。

「っ……!!」

朱鳥は、痛そうな顔をして、さっきよりもさらに、多くの涙を流した。

「朱鳥、ごめんね…俺も、次の仕事あるから行くね。……また、来るからね。」

こっちまで涙が出てきそうになる。

ごめんね……

ごめんね…

朱鳥………………
< 129 / 505 >

この作品をシェア

pagetop