この恋を、忘れるしかなかった。
”じゃあ楽しみにしてるね”
そう書いた付箋を貼って帰り支度を始めたわたしの顔は、自分でもわかるくらいにこやかだった。
それは、正しい感情なのかわからないけど、本当に楽しみに思ったから。

「安藤先生、それ霧島のでしょ?」
「あ…林先生」
"霧島"というワードにどきりとしながら顔をあげると、霧島くんのクラスの担任の林先生が目の前に立って、スケッチブックを指差していた。

「よくご存知ですね」
「あぁ、たまたま霧島が持って来たのを見かけたから」
「美術の課題なんです。霧島くん遅れぎみで…。それよりもうすぐ修学旅行ですね。どちらへ行かれるんですか?」
わたしは適当にごまかしてから、話題を変えた。

「沖縄だよ。安藤先生にもお土産買ってきてあげるから、楽しみにしてて」
「はぁ…ありがとうございます」
「じゃ、また明日!」
林先生は豪快に笑うと、わたしの肩をポンポンと叩いてから帰っていった。

叩かれた肩から、ぞわぞわしたモノが身体を伝う。
その正体は、間違いなく嫌悪感というヤツだ。

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