【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
――ピチャ……

血に染まった涙とともに頬から傷口へと舐め上げる青年の優しい舌と唇から水音が響く。
時折目元に笑みを浮かべながらアオイの肌を吸い続ける美しいその紅の瞳には、もはやウィスタリアへ向けられた怒りなど感じられず、彼の優しさが顔を見せはじめていた。

「お前の血はどんな蜜よりも甘く……極上の香りを放ってる」

「……ぅ、」

浮かされるように朦朧とする意識を必死に保ちながらアオイは尚も後方の女官を心配し視線を逸らさず、崩れ落ちる体を支えるようと懸命に青年の胸へ腕をつっぱっている。

「心配するな。そいつらはキュリオが何とかするだろ」

アオイをなだめるように彼はピンク色の彼女の頬に優しい口付を落とす。

やがて扉の向こうから数人のものと思われる足音が聞こえはじめ、愛しい彼女の名を叫ぶ悠久の王の声が響いた。

『アオイッ!!』

「……っ!」

彼の声に大きく目を見開いて扉を振り返ったアオイ。
そのキラキラした彼女の眼差しには、キュリオに対する絶対的な安堵感と強い信頼の意が込められていた。

「…………」

その嬉しそうなアオイの表情にチクリと痛んだ青年の心。やがて彼は小さくため息をつくと――

「もう来やがったか」

赤子を抱きしめる腕に力を込めた彼の周囲には赤黒いオーラが次第に色濃く現れはじめる。
そして鋭く細められた紅の瞳。


――ゴォオオォォッ!!


禍々しくも美しい孤高のオーラは青年の体を勢いよく包み、それが背で大きく渦を巻いたかと思うと、黒い炎が美しい漆黒の翼をかたどっていく。

「…………」

青年の大きな手と炎に抱きしめられていたアオイは挑発的な視線を扉に向け不敵な笑みを浮かべている彼に悲しそうな表情を向けている。

――いまは敵意に満ちあふれた切れ長の瞳。

(ちがう……本当の彼は……)

いつも窓の外からこちらを覗き込んでいた赤い瞳。それはもっと柔らかく穏やかな眼差しだった気がする。

(……また、わたしのせい……)

「……?」

やがてその悲しそうなアオイの視線に気づいた青年。

「……お前……」

「なんて顔しやがる……」
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