【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

変化を齎(もたら)す者

 来た道を戻り、今度は脇目も振らず中庭をすすむ。

(……幼子への食事はあまり間を空けなかった気がするな)

 本格的な赤子の世話をしたことがないキュリオだが、この広大な敷地内に孤児院があるため基礎知識くらいは身につけている。
 そして、あれこれ考えるよりも先に"一晩に一度の食事で済むはずがない"と結論を出した彼の足は、厨房のミルクがしまってある保管庫へと向かった。

 カタンと鍋の金属音が鳴り、バタンと保管庫の扉を閉める音が響く。
 さらにチャポチャポとミルクを注ぐ音が続くと、鍋底を熱する火のあかりで部屋がほのかに明るくなる。

「ボトルはたしか……このあたりにしまってあったな」

 火の加減を気にしながら棚へ近づくと、いくつかの小さなボトルが目立つところに並べられているのが見えた。

(……皆に気を遣わせてしまったか)

 見て見ぬふりをしながら助けになってくれる者たちに感謝しながらも、キュリオはあたためたミルクを手際よくボトルへと移していった。

 今度は布に包まずとも、ほんのりあたたかい程度だ。

「初めてにしては……上出来か」

 ボトルに蓋をし、自室を目指す。なぜかその足取りは軽く、眠気も感じない。
 さらには彼女が起きていくれていたら……とまで願ってしまう始末だ。

(いや、幼子がこんな時間に起きているのはよくないな)

 と、己に言い聞かせながらも浮足立っているのが自分でもわかる。
 はやる気持ちを抑え、そっと自室の扉を押しのけ寝台へと近づいた。

「おや……私の願いが通じてしまったようだ」

 そういって目元をほころばせるキュリオは、大きな瞳を瞬かせる彼女の額へと口付けを落とす。涙のあともなく、ぐずった様子は見受けられない。

「お前は本当に大人しい子だね。眠れないならちょっと外へ出てみようか?」

(あの変わりない風景も、この子となら……)

「……?」

 パチクリと瞬きをする赤ん坊を腕に抱き、風邪をひいてしまわぬよう柔らかな羽織でその体を包んだ。

「さぁ行こうか」




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