Seven days【短篇】


 目の前で『俺』がにぃ、と笑う。口角が上がるのを見た瞬間、思い出した。

 月曜日、家の近くでぶつかった奴。見覚えがあるはずだ……俺の家族共通の特徴でもある笑った時の口角の上がり具合。あれは『俺』だったんだ。

「ね、その体……ちょうだい?」

 嫌というほど聞きなれた声のはずなのに、それを聞いた瞬間鳥肌がたった。

 頭の中でヤバイヤバイと警報が鳴ってるのに身動きひとつ出来ないでいる俺に『俺』が手を伸ばしてくる。ヤバイ。こういうのなんていったっけ。確か……

「大吾!! 逃げて!!」

 不意に足元に黒い影が飛び込んできて、とてもその体に見合わない強い力で体当たりされて俺はしりもちをついた。クロ……?

「それに触られたら乗っ取られるよ。それ、ドッペルゲンガーだ」

 目の前でクロが俺に向かって……喋ってる?

「……猫又風情が、邪魔しないでよ」

 不機嫌そうに顔を歪めた『俺』が黒い影を身に纏うと、クロも黒い影を身に纏い、伸びた影と影が互いに押し合いだした。

「大吾には恩がある。連れてかせないよ」

 シャーとクロが威嚇すると、クロの影が『俺』の影をぐいぐいと押していく。

 なんだなんだ? 一体何が起きてるんだ?

 俺はいたって普通の健全な高校生で、いたって普通の日々を送っていたはずなのに。

 目の前でバトルを繰り広げるドッペルゲンガーと猫又を、しりもちをついたまま茫然と見ながら、俺は頭の中で

(えええええ~!?)

 只、叫ぶしかなく。

 そんな俺の目の前では、見たことも聞いたことも無い異常な光景が続いている。






 どうやらこのおかしな日曜日は、まだまだ終りそうにない。






 俺は頭を抱えて、長い長い溜息をついた。


 

【終】


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