ハミングバード
全文
 夜中にまた、パトカーのサイレ
ンが響いている。
 この頃、犯罪が多発し刑務所が
飽和状態にあった。また、再犯す
る者が後をたたず、刑務所の更正
効果がないことが明らかになっ
た。
 そこで法務省は犯罪者を隔離す
るのではなく、実社会で管理する
方法を探っていた。
 その第一段階が『更正カプセ
ル』で、犯罪者の体内に埋め込ま
れ、犯罪者が不審な行動をする
と、監視センターから更正カプセ
ルを作動させ、仮死状態にするこ
とができるようになっていた。
 これを利用して犯罪者を実社会
でも自由に行動させ、管理するこ
とができるか、実用実験が始まっ
た。
 実験に選ばれる犯罪者は最も凶
悪な者で、これが成功すれば他の
犯罪者はたやすく管理できるとい
うことだ。
 そこで選ばれたのは連続強盗殺
人犯で何度も脱獄歴のある死刑
囚、貞崎光吉だった。
 光吉には人との接触を極力避け
るため仕事をさせられないので、
最低限の生活費が支給される。
 常に監視はされているが、普通
の生活ができる。ただし、罪を犯
せば、その場で射殺されるか、裁
判なしの即日、死刑執行となる。
「ようするにお前は、俺達のペッ
トだ」
 光吉の監視を指揮する末安特命
捜査官が刑務所から呼び出された
光吉に言い放った。
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