君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜



3月もあっという間に桜の季節を迎えた。

流人がやっとこの島へ帰って来る。
でも、この島に滞在できるのはたったの3日間で、その後はきゆを連れて東京へ帰ることになっていた。
流人の帰りを待ちわびていたのはきゆだけではない。
老健施設の人達や、流人に診てもらった患者さん、役場の人達、もちろん院長夫妻まで、たくさんの人達が流人の顔を一目見たいと港へ来ていた。


そんな流人は、船から見える島の輪郭を頭に焼き付けていた。

港に近づくにつれ、一年前のあの日が昨日のように甦ってくる。
ただ、きゆに会いたくて、きゆを取り戻したくて、この島へ無我夢中でやって来た。
こんなにもこの島のことを愛おしく大切に思える日が来るなんて、あの時は夢にも思わなかった。

きゆによってもたらされた素晴らしいこの島での日々は、流人の人生の中で大きな意味を持つだろう。


間近に港が迫ってくると、真っ先にきゆの姿が見えた。
たくさんの人達に埋もれて、でも、真っ直ぐに流人を見て手を振っている。

流人も大勢の人達に大きく手を振った。
島の人達が待ち焦がれていた最高に爽やかな笑顔を浮かべ、全身を揺らして大きく手を振る姿は、また皆を笑わせた。




< 149 / 156 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop