君の中で世界は廻る〜俺様ドクターの唯一の憂い〜



「じゃ、お礼の挨拶みたいなキスならしてあげる」


流人は寝転がったままで、嬉しそうに目を閉じきゆのキスを待っている。


「ちゃんと、起きて。
寝た状態じゃ、挨拶のキスなんてできないよ」


流人は口角を上げたご機嫌な顔で、でも面倒くさそうなポーズを取りながら体を起こした。


「たくさんのバラの花束、ありがとう…
すごく、嬉しかった…」


きゆはそう言って、目を閉じている流人に軽くくちびるがかする程度のキスをした。


「え? 終わり??」


きゆが可笑しくてクスっと笑うと同時に、流人に強く体を引き寄せられた。


「きゆ、そんなのキスじゃないよ」



そうやって、流人のしたいように、私は体を預けてしまう…
久しぶりに流人の腕に抱かれ、懐かしく当たり前のようなキスをする。
それは、幸せで、でも苦しくて、恋い焦がれていた優しいキス……



「流ちゃん、もう、やめて…」


きゆの目には涙が溢れていた。
あの時にきゆが受けた傷は、まだかさぶたにもならないまま疼いている。


“流人先生は、医者のお嫁さんをもらうらしいよ”

院長秘書に教えてもらったあの日、病院を辞める決心をした。
誕生日の浮気より、きっとこの言葉が私を縛り付けている……





< 36 / 156 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop