御曹司様のことなんて絶対好きにならない!
必死に言い募るのに、井深さんは笑ったまま取り合ってくれない。

「そうかぁー?それは違うでしょ。だって‥‥」

急に話を止めた井深さんを見て、そのまま彼の視線を辿る。

「か、係長!お疲れ様です」

やましい事はないのに思わず言葉が尻すぼみになってしまう。

「お疲れ様です。井深さんも鈴木さんも資料探しですか?」

近付きながら普段のトーンで話す坊っちゃまに井深さんがイタズラっ子の目で話しかけた。

「こんな密室に俺と鈴木さんが2人っきりって妬けます?」

一瞬瞳を煌めかせて、坊っちゃまもニヤリと笑う。

「いやー、それはないかな。だって井深さん、経理課の彼女に苦戦中でしょ?」

どうやらこの冗談に乗ることにしたらしい。

「経理課ねー。まーた係長も分かってて悪い事言うなぁ」

井深さんの苦笑の意味が分からない。
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