不器用な彼氏 ~彼女に出会う前のお話~
『だいたい昨日が何の日かわかってたでしょう?』
『昨日?』

唐突に繰り出された質問に、海成は一応考えてみたが、何も思い当たらず、正直に『知らねぇな』と答えると、相手は『信じられない・・・』と心底呆れたという声音が落とされ、

『付き合ってから、1か月目の記念日でしょ!?』

さらに、声音を高くする。

”めんどくせぇ”

海成は心の中で、つぶやく。
それでなくとも、休日返上で仕事していて、疲れと寝不足で気分は最悪だった。その上、この電話で、正直ノックアウト寸前。

『悪りぃけど、大した用事が無ぇなら、仕事中だし切るぞ』
『ちょっと!まだ話は終わってないのよ?』

こちらが仕事中だと言ってるのに、全く悪びれもせず、切る気配のない彼女に、今度はあからさまに舌打ちをする。
疲労の溜まった朝っぱらから、面倒はごめんだ。

『何よ。どうせ仕事って、嘘でしょう?』

唐突に、ワントーン落とした彼女の冷ややかな声が海成を問いただす。

『は?嘘?』
『わかってるのよ。今そこに、女が一緒なんでしょう?』

断定したような物言いで言い放つ。
無機質な会議室で、あらぬ疑いをかけられ、思わず怒りを通り越して笑ってしまった。

『笑って誤魔化すつもり?』

相手は至って真剣な様子で怒りを露わにし、ますますバカバカしくなる。

『いや、よく俺にそんなことが言えるなと、思ってな』
『どういう意味よ』

疑いもせず聞いてくる。

『お前、一昨日、涼介と寝ただろ』
『・・・え?』
『アイツ俺に自慢気に話してきたぞ』
『・・・!!』

あれだけ騒いでいた電話の向こう側で、息を飲み込む気配がした。
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