副社長とふたり暮らし=愛育される日々
庭に咲き始めた沈丁花を眺めながら七恵の声を聞き、想いを巡らせる。

“次の恋愛”……なんて、できるような気がしない。

あんなに私に優しくしてくれて、仕事でも支えてくれて、カッコ良くてハイスペックで……そんな完璧な人が、この先現れるとは思えないもの。

たとえ現れたとしても、朔也さん以上に惹かれることは、きっとない。

彼がくれた優しさや愛は、本物ではないのかもしれないけれど、私が彼を好きだという気持ちだけは、紛れもなく本物だから。


しばらく七恵に叱咤されたものの、無気力状態は変わらず、電話を切ると再びぼうっと白い花を眺めていた。

今日は天気が良くて暖かい。これでお茶菓子があればなおさらいいな、と思いながら緑茶をすすっていると、隣にお兄ちゃんがやってきた。

「よっこらしょ」と言って座る彼に、ふふっと笑いがこぼれる。


「おじいちゃんみたい」

「縁側でお茶飲んでるお前もな」


即つっこまれ、確かにね、と苦笑した。

珍しく休みが重なった今日。どこにも行かずに家でゴロゴロしているけど、お兄ちゃんとふたりでゆっくり過ごすのはかなり久しぶりだから、これはこれで良し。

私の考えを見抜いているかのように、お兄ちゃんが持ってきてくれた大福をひと口かじると、気分がほっこりする。

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