副社長とふたり暮らし=愛育される日々
まだまだ忠告し足りないらしいお兄ちゃんを、七恵が無理やり引っ張ってズルズルと連れていく。

なんて残念な兄……。

据わった目で彼を見る私は、もう苦笑いするしかない。朔也さんも呆れたように笑っている。


「本当にシスコンだな」

「困ったものです」

「まぁでも、瑞香に近づくきっかけを作ってくれたのはあいつだから、感謝しないとか」


そう、朔也さんが言う通り、お兄ちゃんがサンタクロース役をお願いしていなかったら、きっとこんな今はなかった。

約四ヶ月前のことをすでに懐かしく思いながら、口元を緩めて「そうですね」と言った。

しかし、刻一刻と出発時間が迫る。次第に顔が強張ってくるのがわかって、寂しさがどんどん押し寄せてくる。

朔也さんは一度腕時計に目を落とすと、私に向き直って口を開いた。


「じゃあ、行ってくる」

「……いってらっしゃい」


なんとか笑顔を作るけれど、絶対ぎこちない。ほかにいい言葉も出てこない私に、彼はふわりと腕を回した。

……あったかい。いつも嗅いでいた甘く爽やかな香りに包まれて、涙腺が緩む。

何も泣くことはないんだ、最後のお別れじゃないんだから。今は、ちょっと離れるだけ。

そう言い聞かせ、瞬きで涙を散らしながら、茶化すように私も忠告しておく。

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