副社長とふたり暮らし=愛育される日々
カチャン!という音と、私の口からこぼれた小さな悲鳴が重なる。

背中に感じるぬくもり、心地良い圧迫感。私を包み込むそれはどれも優しいのだけど、心臓を止めてしまいそうな威力がある。

スキンシップは慣れているだなんて撤回だ。だって、だって……こんなふうに抱きしめられたのは初めてだから!!

声も出せず、水を止めることもできずに硬直していると、耳元で低い声が囁く。


「もし、こういうこと要求されたら思い出せ」


バクバクと鳴る心臓が苦しくて、窒息しそうになりながらなんとか声を絞り出す。


「な、何、を……?」

「俺を」


一層甘く感じる声が鼓膜を揺すった次の瞬間、私を抱きしめる腕の力が少し緩んだ。

解放されたのかと思いきや、身体の向きを変えられ、副社長の整った顔が目に映る。伏し目がちなそれが、とても艶かしいと思ったのは一瞬で──。

今度は唇が、柔らかなぬくもりに包まれていた。


「っ──!?」


な、に……これ、キス……!?

頭が真っ白になるって、こういうことなんだと思い知る。自分のものではない唇の熱さも、呼吸できない苦しさも、何も感じられない。

おそらくほんの数秒で、ぴたりとくっついたそれが離れていく。彼の右手は、私の頭を支えたまま。

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