聖夜は戦場
「クリスマスに会えなくても大丈夫、前倒ししてふたりで過ごそう、って言ってたのになぁ。なんで私、ホテルになんか就職しちゃったんだろ……」
忌まわしきクリスマス当日。
部屋のクローゼットに押し込んだ渡し損ねたプレゼントを思い出し、受付カウンターの中でたまらずひとりごちた。
カップルやら家族連れやらご年配のご夫婦やらのお客様の足がひと段落していたので、今は小声でなら愚痴だってこぼせる。
「またそんなことを言って。ずいぶんサボるのが上手くなったじゃないですか、竹村さん?」
「しゅしゅ、主任!?」
「人間、働かなければ食べていけませんからね。恋と命なら、断然命でしょう。その調子で定年まで働いてくださいね。辞められると困りますから」
と、そこに主任が現れた。
お客様が落ち着いて完全に気を抜いていたから、休憩を終えてスタッフルームから戻ってきた主任にまったく気づけなかったらしい。
「あ、はは……。主任のおっしゃるとおりで……」と苦笑いをこぼす私の横で、主任は物腰柔らかな言い方とは正反対に〝来年も再来年も、この先もずーっと、間違ってもこのくそ忙しい時期に辞めんじゃねーぞ〟という冷淡な視線を向けてくる。