エンゲキカレシ
「王子……様?」

私が呆然としていると、こちらに気が付いた王子様が私を見つめ、首をかしげてきた。

眠そうな丸い目、灰色がかった柔らかそうな黒髪。

肌は男の子なのに透き通るように白くて、どこか儚げだ。

そして、彼の身にまとっているその服装。

王子様というのは比喩ではない。

学生服のような形の白い服に、金色の装飾がそこかしこになされている。

左胸には勲章。

腰には、西洋の騎士が持っているような剣――――エストックというのだろうか――――が提げられている。

日本人の恰好ではない、どう見ても。

顔は日本人だけど。

もしかして私、異世界にトリップしちゃったりしたのかしら。

最近ウェブ小説ではやりのあの展開!

てことは、ここは剣と魔法のファンタジーワールド!?

「新入生じゃないのか? ここでなにしてる?」

妄想に浮かれていた私を、王子様が現実的な言葉で引き戻した。

新入生という単語が出てくるということは、学校関係者?

混乱した私がおろおろしながら黙っていると、王子様が私の方に近寄ってきた。

近づくと尚のこと、そのご尊顔が整ったものだということがよくわかる。

「なにしていると、聞いているだろう」

王子さまは若干苛立ったような声音で尋ねてきた。

美形は怒った顔もかっこいいなあ、くそう。

「あの、道に迷って。異世界にトリップしたかと思ったんですけど。ここは日本ですか?」

私が意味不明な質問をすると、王子様は唖然とした。

眉を顰め、かわいそうなものを見る目で私を見てくる。

そして私の質問はスルーすると、重ねて尋ねた。

「青葉学園の生徒か?」

「あ、そう、そうです」

単純な私の脳でも答えられる質問がくる。

大きくうなずいて肯定した。

王子様はまだ少し不審がっていたが、黙って踵を返し、数歩進んだところで振り返った。

「なにをしている、ついてこい」

「え?」

何を言われたのか一瞬理解できなかった私は思わず聞き返す。

王子様はため息をついてもう一度言った。

「ついてこい。迷っているのだろう。講堂に連れて行ってやる。今ならまだ入学式に間に合う」

「あ、はい!」

私はあわてて王子様の背中を追いかけた。

どうやら、迷った私を助けてくれるらしい。

そしてこれが、私と、榛名理央先輩との出会いだった。
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