忘れ物 ~ホテル・ストーリー~
忘れられないお客様

昼下がりのホテル

ホテルは、午後のお茶の時間を迎える。

ここ虎の門ホテルは、開業以来日本を代表するホテルとして、国内外の重要なお客様をおもてなしする老舗のホテルだ。
虎の門ホテルのおもてなしは、このホテルを利用する人を魅了し続ける。

吉野友里恵は、今年ようやくこのホテルのコンシェルジュとして働くようになった。
このホテルで働くのは、友里恵の子供のころからの夢だった。
しかも、この虎の門ホテルのコンシェルジュとして働けるなんて、信じられないことだった。

というのも吉野友里恵は、おっとりした性格で、このホテルの顔というべき存在には役不足ではないかと難色を示す声も出たからだ。

それを、チーフコンシェルジュの深田が、
『彼女は流ちょうなフランス語が話せますし、上流階級のお客様には、積極的に声をかけるよりも、そっと見守るような接客の方が好まれます』と言って彼女に対する反対意見を押さえた。

だから、友里恵は、チーフコンシェルジュの深田にずっと感謝をしている。

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