忘れ物 ~ホテル・ストーリー~

ロビーを抜けて、コンシェルジュデスクへ向かう途中で予約係の矢島都に出くわした。

「ああ、良かった。吉野さんフランス語出来るのよね」

「はい」

「ちょっと来てくださいませんか?」

友里恵は矢島について、急いでフロントに向かう。

事務室に入ると、同じ予約係の飯田が電話口で話している。
飯田は、予約係の主任で彼の英語は完璧だ。

「本当によろしいのでしょうか?」
飯田がきれいなアクセントで答えてる。

「どうしたの?」
友里恵は、電話の相手が英語では十分話が伝わらないと思ったのだろうかと考えた。

友里恵が尋ねると、矢島が説明してくれた。
フランスから、ホテルのフロントに一本の電話がかかって来ていた。

電話の相手は、カトリ-ヌ・ドゥシャン女史。
元政府の要人の奥様だった女性で、自身もフランスの大学の教授を務めている。

「カトリ-ヌ・ドゥシャン女史は、どうしてもうちに泊まりたいと言ってるんだけど、知っての通り、ホテルの本館は今大規模な工事中で、とても要求度の高いお客様を受け入れる体制にないの。
だから、満足におもてなしができるとは思えないと、ちゃんと説明しなければいけないのだけど。
いくら英語で説明しても、はい大丈夫ですって、返事ばかりで。
本当にわかっていらっしゃるのか心配だから、そこのところをきちんと聞いて欲しいの」

飯田が、フランス語を話すスタッフを連れてきましたので、電話を変わらせてくださいと相手にお願いしている。

矢島の説明に友里恵は頷いた。



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